無冠詞名詞+as+S+V

 受験英語の参考書・問題集などによく出てくる「形容詞+譲歩の as +S+V」(~だけれども)に関連して、下の例のような無冠詞の名詞の来る用法があります。これらがいまだに堂々と残っている参考書や問題集も見られます。松江北高で使っている文法参考書『デュアルスコープ』(数研出版)は、このasの用法を取り上げて「補語が名詞の場合は冠詞が省略される。ただし、この用法は現在では<まれ>」と、正しく指摘していてさすがです。「ただし、無冠詞の名詞 + as + S +V は、文語調で古風に感じられるため、現在ではほとんど用いられず、名詞も限られている。」という『ロイヤル英文法』もいいですね。しかし、今でもこのような用法を堂々と教えておられる先生方もおられます。自分が学生時代に習ったことをそのまま教えているだけで、自分で検証してみようとする姿勢に欠けます。

? Woman as she was, she was brave.(女性だけれど彼女は勇敢だった)
?Girl as she is, she is brave.(女の子だけれど彼女は勇敢だ)
? Teacher as she is, she does not like small children very much.(教師だけれども、彼女は小さな子どもがあまり好きではない)

 このような名詞の来るasの用法を、私たちの『ライトハウス英和辞典』が収録していないことを、故・福村虎二郎教授(北海道大学)はかつて『英語教育』のQB欄において、「不注意な脱落によるもの」と決めつけられましたが、これは現実の語法を無視した全く的外れな批判でした。このような用例に疑義があることは八木(1981,1987)のみならず、私たちの詳細な調査結果からも明らかでした。故江川泰一郎氏が、名著『英文法解説』(改訂三版)の中で、「文頭に無冠詞の名詞を出す次のような構文は、現在ではほとんど使われない:Child as he is, he can think clearly and act wisely.」と記述しておられるのは、さすがと言わなければなりません。

 さて話は元に戻って、このような無冠詞の名詞と譲歩のasも、Hero as he was だとか、Fool as I amといった「程度を表す(gradable)名詞」だと容認度が増す、という興味深い事実を指摘されたのは、故・ボリンジャー博士でした。いつもながらに鋭い指摘です。さらに、asの「~だけれども」「~ので」の二つの読みに関しては、イントネーションがカギを握っているというご教示もいただきました(詳しくは「ボリンジャー博士の語法診断」第7回 『現代英語教育』10 1990年を参照)。

Coward as he was, he nevertheless stood his ground.
Dunce as he is, he still understands.
Milksop as he was, he still got up the nerve to protest.

 数多くの著書・論文から、また『ライトハウス英和辞典』の編集作業でご一緒する中で、特定の理論一辺倒になるのではなく、言語事実にしっかりと向き合う姿勢を、ボリンジャー博士からは教えていただきました。博士の言語哲学は「形が異なれば意味も異なる」でした。学生時代に、博士のThat’s That(Mouton, 1972)を読んだ時の衝撃は忘れることができません(この書名の意味深さが分かりますか?)。そんな博士と仕事をご一緒できるなんて、夢にも思わないことでした。

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