諺A rolling stone gathers no moss.

 私が教員に成り立ての若い頃、表記のことわざ「転石苔を生ぜず」に、二通りの解釈が存在するということがよく話題になっていました。すなわち(A)「落ち着きなく転居や転職を重ねて動き回っていると財産も地位も身につかない」(悪い意味)(B)「常に活動的に動き回っているものはいつまでも古くならない」(良い意味)と、+-全く正反対の意味に取られるというものです。同じ表現でも、「苔」の解釈一つで、これほどまでに受け止め方が異なるものか、と面白く思ったものです。当然、この問題はさまざまな研究書に取り上げられ、結論的には(A)はイギリス古来の解釈、(B)アメリカの新しい解釈、という扱いが一般的であったようです。いくつかの学習辞典の扱いを見てみましょう。

◎「職業や住居をしばしば変える人は、金がたまらず、友人ができない」の意味だが、転職 や転居に違和感をもたない人々の間では「活動的な人はいつも清新である」という解釈も一般的。〔スーパーアンカー〕
 ◎「職業や住まいを転々と変える人は金がたまらず、友人もできない」と「常に活動的な人 は新鮮である」との両方の意がある。〔ウィズダム〕
 ◎このことわざの本来の意味は、職業を変えてばかりいる人には金はできない、落ち着いて身を固めないと家庭の幸福は得られない、相手を変えてばかりいては本物の愛は手に入らな  いということ。「常に活動している人は沈滞しない」と、最近ではよい意味でも用いられる。
 〔ユースプログレッシブ〕
 ◎「職をよく変える人は成功し[金持ちになれ]ない」という「忍耐」を尊重するのが本来の意;《米》では「活動する人は常に新鮮である」の意でも用いる。〔ジーニアス〕

◎主に英国では、「たびたび転居や転職をする人は金がたまらない」、「技術や信用も身につかない」、あるいは「移り気な人は真の愛情が得られない」といった意味で使われるが、mobility(移動すること)に価値を置く米国では、「たえず積極的に活動している人は常に新鮮でいられる」と解されることが多い。〔アドバンストフェイバリット〕

 しかしながら、現代英語において、A=イギリス用法、B=アメリカ用法、といった割り切り方は危険だと思われます。この二つの解釈に関して、かつてR.イルソン博士(ロンドン大学)は、興味深い事実を教えてくださいました。ロンドン大学のスタッフ(The Survey of English Usage)の中で、40歳以上の人たちは(A)の悪い意味に取り、40歳以下の人たちは(B)の良い意味に解釈するという傾向が見られた、というのです。少なくとも、イギリスでも両方の意味が存在しており、若い人たちの間では、(B)の良い意味の方が一般的という結論ですね。若い人たちの間でも(A)の悪い意味も消えてはいないとのことでした。

 今度は、アメリカでの実態を、J.アルジオ博士(ジョージア大学)に聞き取り調査していただきました。被験者は60人(大学教授、大学院生、英語専攻大学4年生)。

(a) People who often move or change jobs will never succeed.
(b) Active people don’t become bogged down or old-fashioned.
(c) People who constantly move go through life without incumbrances.

 それによると、(a)と解答した人は15%、(b)または(c)のいずれかと解答した人は85%((b)と(c)はほぼ半分ずつに分かれた)でした。アルジオ博士ご自身も、”If you stay active doing things, you won’t get bogged down or become set in your ways” “If you keep up with things around you, you won’t get left behind by changing conditions.”という良い意味の解釈しか知らない、と答えられました。本校の前ALTチェルシーさんも、現ALTのエドワード先生(共に米国出身)も良い意味に受け取るとのことでした。アルジオ博士のジョージア大学の同僚に諺の専門家がおられ、文献を教示していただき、もともとの悪い意味は英語本来の用法であり、良い意味はスコットランドの用法であり、その影響という歴史も学びました。

 というわけで、私たちの『ライトハウス英和辞典』(第6版)では、「以前は「しばしば職業や住居を変える人は成功しない」という意味に使われていたが、最近では「活動している[飛び回っている]人はいつも清新である」という意味に使う人が多い」という説明に落ち着いたのでした。以上、今日は辞典編集の舞台裏をご紹介してみました。♥♥♥

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