「22分50秒」

 年末の「クリスマスの約束2016」を見終わって、感動も新たな中に、年が変わってどうしても見直したい小田さんの映像があって、お正月にみかんを食べながら、久しぶりに見直してみました。2009年の「幕張メッセ」3000人の観客を前に、クリスマスの約束」で披露された「22分50秒」22thと小田さんによって命名された大メドレーです。小田さんが「前からずっとやってみたかった企画」です。小田さんを始め、ゲストAI、Aqua Timez、いきものがかり、キマグレン、Crystal Kay、財津和夫、佐藤竹善、清水翔太、JUJU、スキマスイッチ、鈴木雅之、STARDUST REVUE、中村 中、夏川りみ、一青 窈、平原綾香、広瀬香美、藤井フミヤ、松たか子、山本潤子、が全員で、それぞれの代表的なオリジナル曲をワンコーラスずつメドレー形式で歌い継いだものです。タイトルはそのままズバリ、「22分50秒」、メドレーの曲の長さがそのままタイトルになっています。全体のアレンジは小田さんが行いました。

 番組は、その小田さんの企画の立ち上げから、参加ゲストたちとの話し合い、テレビ局スタッフとの話しあい、リハーサルの模様等をドキュメント形式で追っていきます。誰もが、始めは懐疑的でした。まず番組スタッフが、不安をあらわにしていました。小田さんがリスペクトする様々な個性を持つアーティストたちに、手紙を書いて、オファーしました。しかし、彼らは歌い方が違い、フィーリングが違う。年齢も違い、音楽への取り組み方も違うだろう。同じく舞台に立つとは言え、監督がいて、脚本があり、共演者とのアンサンブルでドラマという芸術形態を作り上げていく役者とは違い、自分たちの言葉・音楽とパフォーマンスで、自ら独自の世界をステージ上で築くことに命をかけるシンガーたちは、基本的に常に自分が主役だ。これだけたくさんの同業者たちと「共演」する、自分が脇役になる、というような体験に慣れているわけではない。「できっこない」というのが最初の反応でした。おそらくは、自らの楽曲についてそれぞれ一国一城の主である各シンガーにとって、そんな試みが成功する、というイメージが成り立ちにくかったとして、不思議はありません。「それで何になるのだ」という疑問ももっともでした。「そんな試みに何の意味があるのだ?」と。実は、小田さん自身、確信はなかったようです。ただ、彼はやってみたかった。はっきりとしない、小田さんの情熱のようなものだけが、このプロジェクトをひっぱっていました。小委員会の会議の中で、小田さんの構想についての率直な疑問が、参加する年下のアーティストたちからぶつけられました。「やっぱり、そんなに簡単なことじゃなかったんだな……」会議の後で、思わずそうつぶやく小田さんの姿をカメラはとらえていました。しかし、小田さんは強行突破します。リハーサルは始まっていました。小田さんと参加アーティストたちは、走りながら、形をつくりながら、そのプロジェクトの可能性を自ら確かめていこうとしていました。小田さんがアーティストに送った手紙です。 

アーティスト諸君へ

前略、突然のことで、お許しください、お願いの手紙です。

ずっと考えていました。
たくさんのアーティストが一堂に会して、
一気に「歌いたいうた」を全員で歌ったらどうなんだろう。
たくさんというのは具体的にいえば30人(組)を超えるくらい。
そのアーティストたちが、できるだけみんなで選んだ30曲ほどを
1コーラスづつ、休まず、通して歌い倒す。
イベントのフィナーレのように
歌わないけどそこに立っている人もいる、ではなくみんなが精いっぱい歌っている。
そしてその歌のすべてが、誰もが知っている「あの曲」である必要はない。
それをTBSの「クリスマスの約束」という番組でやってみたいのです。
それがどうしたんだといわれても、甚だ無責任ですが、
返せるような確かな答えはありません。
何かが伝わるかもなどとも言いません。
でももし「それ、面白そうじゃん。付き合ってもいいよ」と
膝を軽くポンと叩いて同意してくれるようなら
「どんなヤツが来るの?アイツがいるならイヤだ」と言う、
まるでちょっと前のボクのような了見の狭い気持ちはこの際、
思い切り捨てていただいてぜひ参加してください。
運動会の参加費くらいのものと、たいへんだったなぁという思い出しか用意できないと思いますが、
基本的にすべての曲は、全員でユニゾン、つまり斉唱でと考えています。
そしていちばん肝心なこと、収録日は11月30日を予定しつつ、
ご返事、さらに忌憚のないご意見をお待ちしています。

2009年8月 小田和正

 全体としては、各自のオリジナル曲のメドレーであり、かつ、曲と曲とのつなぎだけでなく、全体を小田さんがアレンジして、コーラスやハーモニーが付けられています。つまり、一人当たり平均して一分程度、自らのオリジナル曲を歌い継ぐが、そのオリジナル部分にも小田さんの素晴らしいアレンジが施され、コーラスや、ユニゾンが付加される場面が多く、それ以外のパートでは、ほかのシンガーたちがバック・コーラスに回るのです。結局、「22分50秒」の大半を、他人の曲のバックに回ることになります。しかも小田さんは、他人の曲の間、為す術もなく立ちん坊になるのではなく、各シンガーがきちんとコーラスに参加することを望んでいました。つまり、全体のほとんどを、きちんとお互いの脇役としての役割を果たすように求めたのです。みんなで作り上げるというのが小田さんの狙いです。

 ドキュメントは、そこで終わり、当日を迎えます。そして始まりました。藤井フミヤから始まり、歌い継がれる各シンガーの曲。交代するときにはハイタッチ。誰の顔にも笑みが浮かび、その顔が輝き始め楽しそうです。順に自分の歌を歌い、ハイタッチして、サポートにまわる。その繰り返しが、徐々に不思議なバイブレーションを生んで、各アーティストを、観客一同を巻き込んでいく。ああ、そうか、まるで箱根駅伝のようです。タスキの代わりに自らの歌を手渡して、走り継いでいる。マラソンを、駅伝にしてしまった、日本人アーティストによるイベントでもあったのです。観客がみんな、沿道で懸命に旗を振り応援する人々に重なります。歌いながら、同じ場所と時間を共有しながら、誰もが心から感動しているように見えました。その、魔法のような「22分50秒」が終わったとき、拍手が長い間鳴り止みませんでした。小田さんは言葉を失います。きっと、彼の思惑をはるかに超えて、感動が彼を圧倒していたのでしょう。

22’50”

この日のこと
トゥルーラブ 藤井フミヤ
今夜だけきっと スターダストレビュー
ロマンスの神様 広瀬香美
明日がくるなら JUJU
明日、春が来たら 松たか子
友達の詩 中村中
LaLaLa 佐藤竹善
恋におちたら Crystal Kay
Story AI
夢で逢えたら 鈴木雅之
ハナミズキ 一青窈
翼をください 山本潤子
HOME 清水翔太
YES-YES-YES 小田和正
LIFE キマグレン
虹 Aqua Timez
全力少年 スキマスイッチ
Jupeter 平原綾香
涙そうそう 夏川りみ
青春の影 財津和夫
帰りたくなったよ いきものがかり

 

 

 音楽史上初となる「22分50秒」の壮大なメドレーという前代未聞の挑戦でしたが、メドレー終了後の鳴り響く拍手とその長さは圧巻でした。最後に山本潤子さんが語っていましたが、「小田くん、アレンジ大変だったね」。拍手が鳴り止みません。小田さんが「今までにもらった拍手の中で最も長い」ものだった、と語るぐらい感動的な場面でした。後に、第36回放送文化基金賞番組部門・テレビエンターテインメント番組優秀賞を受賞しました。最後にアーティストが一人ずつ感想を語っていましたが、小田さんに振られると「語りたくない。言葉にしたくない。このまま持って帰りたい」と拒絶したのも、感動を言葉にしてしまうと嘘になるという思いからだったのでしょう。さまざまな権利の問題で難しいかもしれませんが、ぜひDVD化をお願いしたい番組でした。コチラで映像を見ることができます。❤❤❤

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