特急「ソニック」

DSC01301 私は鉄道デザイナー水戸岡鋭治(みとおかえいじ)さんの大ファンです。水戸岡さんがデザインしたJR九州の多数の列車の中でも、日豊本線を走る特急「ソニック」はデザインが大大好きな特急列車です。今日はこの特急列車のお話です。私がどれくらいこの列車に思い入れがあるかを感じていただけるでしょうか?電車の中に一歩足を踏み入れた瞬間に、誰もが「これまでの鉄道車両とは全く違う!!」という印象を持つ車両です。

水戸岡鋭 水戸岡さんがJR側から要求されたコンセプトは、「ワンダーランド・エクスプレス」、「不思議な国」のようなワクワク感を持って楽しい旅に出るというものでした。この特急のデザインの構造は、イタリアの工業デザイナーのマルチェロ・ガンディーニのトラックからヒントを得た、と水戸岡さんは話します。特徴的な外観に負けず、原色を多用した車内は確かに不思議の国の様相を呈しています。派手な色彩ではあるのですが、心地よい上品な派手さです。特急「つばめ」で使用したアルミアルマイトをふんだんに使用して近未来的な印象に仕上げています。

 今日は大分へ行くのに小倉から乗車しました。日豊本線博多〜大分間のスピードアップを図るために開発された883系車両は、「制御付き自然振り子装置」を採用したJR九州の振りDSC01319子式交流電車です。急曲線の多い日豊本線のスピードアップを目的とし、制御入り振り子システムを採用し、車体を傾け、曲線部でもスピードを出すことができます。小倉を過ぎて日豊本線に入ると,左手には海岸線、右手には平野が広がりぐんぐんスピードを上げていきます。最高時速130キロで走るソニックが、カーブ通過時にコンピューターとセンサーを連動させて、遠心力による振り子の機能に加えて、空気圧シリンダーの力で車体の振れ角を制御しています。列車を微妙に内側に傾けることで,速度を落とさずに駆け抜けることができるわけです。私もカーブで傾く車体を体感しました。平成7年4月20日改正から特急「ソニックにちりん」で営業運転を開始し、平成9年3月22日改正からは特急「ソニック」として運転されています。なお、「ソニック」(sonic)とは「音速の」を意味する形容詞。「ソニックにちりん=音速のにちりん」と意味が通りますが、「ソニック」だけでは、ちょっと意味が…。響きはいいのですが。

 最高速度は130km/hで、博多〜大分間の所要時間は約2時間10分に短縮されました。山陰の特急とは比べものにならないくらいスピードを出して疾走しています。車体は軽量DSC01339化を図ったステンレス製(前頭部除く)で、直線を基調とした精悍なスタイルが特徴です。当初は編成ごとに塗色が変えられていましたが、平成17年3月から実施されている車両のリニューアルでは、九州の東海岸をイメージしたまばゆいばかりのメタリックブルーに統一されています。「青いソニック」と呼ばれています。列車に乗り込むと、アルミの床に、グリーンとブルーのメタリックカラーの壁、その向こうに客室を仕切る曇りガラスが見えます。向こう側にある座席が微かにに見えるガラスの仕切りとアルミの壁が構成する空間は、まるでDSC01310宇宙船です。横になれるマルチスペースや、立っていても楽しいコモンスペースまであります。キャビンに一歩入ると、どこか知らない不思議の国の広場に紛れ込んだような世界に引き込まれていきます。私の乗った先頭車両1号車のグリーン車には、運転室のすぐ後ろに、展望スペースの「パノラマキャビン」が設置されています。鉄道好きには堪らないスペースです。パイロット気分を疑似体験できるこの場所は、コックピットの中できびきびと動くかっこいい運転士と、前方の景色を独り占めすることができます。デザインにも大きなこだわりがあり、弧を描く木製のベンチシートに腰掛ければ、さらなる不思議の国への扉が開かれます。シートとそDSC01323の上部のヘッドレストは全て本革製で、まるで小グマの耳をイメージしたかのようなそのデザインはミッキーマウスの耳を彷彿させます。色や形だけでなくエルゴニミクス(人間工学)に基づいた設計によって、長旅でも疲れにくいこだわりの椅子だそうです。確かに頭がホールドされて快適に座れる座席です。座席にはコンセントもついていてビジネスマンDSC01346にはありがたい環境です。シートもスイッチ一つの電動リクライニングで座り心地は抜群でした。車内にはいたるところに木の香り漂う装備が見られます。床にはにぎやかなモザイク模様のカーペットが敷かれています。荷物を置く座席の上の棚も飛行機のようなハットラック式を採用しています。このように、水戸岡さんのデザインしたJR九州の特急列車はすべてが(例:かもめ」「ハウステンボス」「ゆふいんの森」など)特徴のある顔をしています。山陰を走る特急列車とはえらい違いです。

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 実は、水戸岡さんによれば、この路線を走っていた以前の列車の雰囲気は相当荒んでいたそうです。とてもよいとは言えないデザインのメンテナンスもあまりされていない列車で、夕方になると車内で酒を飲んでいる人が結構いたし、さきイカが床に落ちているのが当たり前といった感じで、ゴミも至る所に目立っていたそうです。そんな空間にいれば、人はどうでもいいやという気持ちになってしまうでしょう。関係者からは、「水戸岡さん、ここでカッコをつけた列車をデザインしてもダメですよ。何をやっても無理だから」と言われたそうです。「日豊本線のイメージを変えるために、いまだかつて見たこともない車両を作りたい」水戸岡さんはDSC01306おざりにされていた空間を整理整頓して楽しい空間を作ろうと思ったそうです。楽しい空間を作れば、どうでもいいやといった運用・利用の仕方にはならないだろうと、のゴミを拾いながら思ったそうです。どうせデザインするなら徹底的にやってやろう、全く新しいオリジナルな空間を作ろうと決めました。すべての部品の細部まで完全に100%オリジナルで、時間と手間を惜しまずにハンドル一つ、ビス一本に至るまでデザインしました。全く新しい空間をということで、音楽を聴く装置も導入しようとしています。例のクマの耳のようなヘッドレストは、当初は一種のヘッドホンとして企画されたもので、列車の座席で音楽を楽しめるようにソニック=音速という言葉とかけたアイデアだったんです。しかしどうしても音が漏れてしまうということでとりやめとなり、ヘッドレストとして残ったというわけです(ご存知でしたか?)。

 DSC01357787系に引き続き、水戸岡鋭治さんがデザインしたこの車両は、「つばめ」とは印象をがらりと変え、遊び心満載の車両となっているのが特徴。それは、ワイパーや連結器のカバーにも現れており、不必要ながらも不思議な形をしたものが取り付けられています。列車が走る上では必要のないバックミラーを取り付けたり、空気抵抗を少なくするために「風穴」をつけていたりといった、ちょっとした「愛嬌のある遊び心」を取り入れているのです。誰も作ったことのないまったく見たことのない空間を表現した、遊園地のような列車になりました「ゆとり、やさしさ、楽しさ、遊び心」をコンセプトにしたこの列車は、ブルネル賞」大賞」(ワトフォード会議)、「ブルーリボン賞」(鉄道友の会、「グッドデザイン賞」(当時通産省)を受賞しています。

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 ところで、水戸岡さんがデザインした九州の特急列車では、列車の顔となる先頭車正面はもちろんのこと、窓ガラス、ボディ、乗車口のドアなどたくさんの場所に列車の名前が表示されていることに気がつきます。車両の至るところに、いろいろなデザインで名前を見ることができるんです。みなさんはお気づきですか?このことについて水戸岡さんはこう述べています。

 その表示の仕方を見て「やり過ぎだ」と言う人もいますが、私は「ちょっと過剰だ」と思われるくらいが楽しいグラフィックデザインだと思っているので、そんな言葉は気にしていません。さて、列車名が至るところに記されている理由ですが、それは乗客の記念撮影のためです。乗客が旅から帰って写真を見たり整理をしている時に、どこかに列車名が写っていれば、「ああ、この写真は『はやとの風』に乗った時だ」とわかるだろうと思ったのです。そこから辿って、他の写真がどこでいつ撮ったものなのかが推理できる。そんなサービスのためにしているグラフィックデザインなのです。写真を撮影した人、できた写真を見た人の多くは、それをサービスだと意識しないでしょう。しかし、この手間ひまこそがその人の心のどこかを揺り動かすのではないか。そう思って、私は列車名を至るところに記すデザインにしています。     ―水戸岡鋭治『水戸岡鋭治の「正しい」鉄道デザイン』(交通新聞社新書、2009年)

 大分から帰るときには、もう一つのソニック「白いソニック」でした。この列車も素敵な特徴を持った列車です。次回に詳しく取り上げますね。お楽しみに。❤❤❤ 

(注) この項をまとめるにあたり、水戸岡鋭治『電車のデザイン』(中公新書ラクレ、2009年)、『水戸岡鋭治の「正しい」鉄道デザイン』(交通新聞社新書、2009年)、『電車をデザインする仕事』(日経能率協会マネジメントセンター、2013年)、『あと1%だけやってみよう』(集英社インターナショナル、2013年)、『ぼくは「つばめ」のデザイナー』(講談社青い鳥文庫、2014年)、日経デザイン(編)『日本おもてなし鉄道』(日経BP社、2015年)を参考にしました。

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