わが町

わが町 たまたま『わが町』第1話が、テレビで再放送されていました。主演の渡辺 謙(わたなべけん)のまだ若かりし頃の作品です。日本テレビ系の2時間ドラマ「火曜サスペンス劇場」で1992年から1998年まで全10作が放送されました。1話完結型式の刑事物サスペンスドラマです。実はこのドラマの原作は、アメリカの故エド・マクベインの警察小説「87分署シリーズ」です(原作はKiller’s Wedge)。設定を日本の東京都心に程近いながらも庶民的な町・月島とし、原作のストーリーを生かしつつも折々の日本の世相・社会問題などを盛り込んだ内容に再構成されています。それ以前にも、フジテレビ系列では1980年4月から10月まで、古谷一行主演で毎週月曜日『87分署シリーズ・裸の街』というタイトルで連続テレビドラマとして放映されていました。日本でもエド・マクベインの人気は高いものがあります。

 原作のエド・マクベイン「87分署シリーズ」は、高校時代の英語恩師の故・大谷静夫先生や三島房夫先生に勧められ、学生時代から大ファンでした。ペーパーバックを貸してもらっては、むさぼり読んだものです。主役のスチーブ・キャレラ刑事を始め、魅力的な刑事たちの日常を、事件にからめて描いた小説で、英語の勉強にずいぶん役だった思い出があります。ときどき、何のことかさっぱりわからない語句や表現・商品名が出てきて、調べるのに四苦八苦したのもいい思い出です。以来、新作が出るたびに丸善紀伊国屋で手に入れては読んでいましたが、2005年7月にお亡くなりになり、もう新作は読めなくなりました。

 東京のミステリー研究家直井 明(なおいあきら)さんは、書いたエド・マクベイン本人よりも、作品の登場人物に詳しく(!)、新作を書くときにマクベインから「過去の自作の情報」を尋ねられたほどだった人です。本当に緻密に読んでおられ、数多くの鋭い研究書が出ています。どうやったらこんなに精密に読めるんでしょうね。

  • 87分署グラフティ『87分署グラフィティ エド・マクベインの世界』(六興出版, 1982年12月(のち、双葉文庫))
  • 『87分署のキャレラ エド・マクベインの世界』(六興出版, 1984年11月)
  • 『87分署シティ・クルーズ エド・マクベインの世界』(六興出版, 1990年10月)
  • 『87分署インタビュー エド・マクベインに聞く』(六興出版, 1992年2月)
  • 『エド・マクベイン読本』 直井明編 (早川書房, 2000年11月)

 私も何回か直井さんに助けていただきました。原作でどうしても分からなくて困っていることを、質問したところ、マクベイン本人に聞いてくださってお答えをいただきました。感激でした。マクベインのことなら、世界中で直井さんが一番詳しいと思っています。「エドマクベイン」のホームページ内にある、「フォーラム」(The 87th Precinct with Akira Naoi)に投稿された直井さんの緻密な観察を読むと、そのことがよく分かります。⇒コチラです

DSC02074 もう一つ、マクベインの小説中の英語表現に関しての鋭い研究書に、山田政美・田中芳文(編著)『エドマクベイン英語表現辞典』(英語の言語と文化研究会、259頁、2005年)があります。マクベインの作品を大学で授業のテキストに使われて、その言語表現と文化を細部に至るまで詳細に検討された貴重な研究書です。辞書形式に項目がまとまっていて、読むだけでとても勉強になる本です。一般には出回っていない非売品なので、ご存じない方も多いと思いますが、研究者はかくあるべし、という指針を示していただいているお手本と考えています。

 さて、冒頭のテレビ番組「わが町」に戻ります。生まれつき聴覚障害を持つ森田吾郎刑事の妻・繭(原作ではキャレラ刑事の妻テディ)は、自分から言葉で話すことはほとんどできませんが、相手の話していることは口の動きを読み取ってかなり理解でき、吾郎や繭の母・ノブは手話と口話を交えてごく自然に繭と話しています。手話だけでの会話場面もありますが、相当なスピードでやり取りされ、内容は字幕で表示されます。本作では会話の演出がリアルで自然なものになっています。舞台として「月島」が選ばれた理由は、原作における「アイソラ」のモデルであるニューヨークでは、警察官は勤務地に居住して「自分の住む街を自分で守る」というスタイルとなっていることを考慮し、そういった描写が原作の描くドラマと共に可能な街、というイメージを脚本家やプロデューサー陣が見出したという理由からです。本作品では、恋人を取り調べの最中に死亡させたことを恨みに思い、爆弾を用意し拳銃を持った女性が警察署を占拠し、復讐のために森田刑事の帰りを待ちます。原作の映像化権の多くが『刑事コロンボ』の製作者に押さえられているため、映像化できるエピソードの選出には苦労していると聞きました。番組の最後のほうで、花火大会をバックにしたきれいなシーンが登場するんですが、その映像を観た原作のマクベイン本人から、「こんなにお金を使って撮れるなら、もっとロイヤリティを払ってくれればいいのに…」と冗談めかして言われたそうです。が、実はそのシーンは撮影期間中に、実際の花火大会が開催されることを利用して、ゲリラ撮影されたものだったそうです。♠♠♠

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