ケンボー先生と山田先生

 いやー、久しぶりに面白いテレビ番組でした。4月29日(月)夜、NHKのBSプレミアムで放映された「ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男 」(ナビゲーターは薬師丸ひろ子さんです。こんな番組が作れるのは、さすがNHKですね。感心しました。

 そのユニークな独特の語と用例で、辞書を「引く」ものから面白い読むものに変えた、といわれる『新明解国語辞典』誕生のドラマに迫る作品です。

「恋愛」⇒特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、出来るなら合体したいという気持ちを持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる(まれにかなえられて歓喜する)状態(第4版)

「動物園」⇒生態を公衆に見せ、かたわら保護を加えるためと称し、捕らえて来た多くの鳥獣・魚虫などに対し、狭い空間での生活を余儀なくし、飼い殺しにする、人間中心の施設(第4版)

このようなユニークな語釈は、他の国語辞典では絶対に見られないものです。この辞典が出た際に、担任していたクラスの学級通信「あむーる」で紹介したところ、生徒達は大爆笑でしたから。「実に」の用例には「助手の職にあること実に十七年〔=驚くべきことには十七年の長きにわたった。がまんさせる方もさせる方だが、がまんする方もする方だ、という感慨が含まれている〕」と、山田先生の見坊先生に対する思いが見て取れニヤッとさせられます。ここら辺の面白さは、赤瀬川源平さんが『新解さんの謎』(文春文庫)で明らかにされ大きな話題となりましたね。松江北高でも大人気の本です。

 この『新明解』を編纂したのは「辞書界の革命児」と呼ばれる堅物の山田忠雄先生。その誕生には、ライバルであり友でもあった男との相克と決別が背景にありました。その男が『三省堂国語辞典』を生んだ「戦後辞書界の巨人」こと見坊豪紀(けんぼうひでとし)先生です。金田一京助博士の門下生で、東京帝国大学文学部国文科で同期だった二人は協力して理想の辞書づくりを追求していたが(「金田一先生は完全な名義貸し」で、という証言も注目)、ある日を境に決別することになります。二人の間に何があったのか?それぞれが貫き通した信念とは何なのか?辞書に人生を全て捧げた二人の男の情熱物語を、再現ドラマや関係者の証言などから描いていました。当事者の生の肉声を聴くことができたのは収穫でした。

 それにしても、用例実証主義を貫いた見坊先生の145万枚という用例カードはすさまじいですね。これが、三省堂の一室に今も残っている様子が映し出されていました。私が学生時代、筑摩書房から出ていた『言語生活』という雑誌に、見坊先生が「ことばのくずかご」で毎月掲載される用例の数々を見て、すごい執念を感じたものです。「ウルトラマン」が収録されたわけも分かります。日刊新聞・週刊誌・放送など生の現代語資料から、直接に用例を採取した「同時代語の辞書」という点で画期的だったように思います。辞書は現状を写す「鏡」なのです。

 辞書作りに携わる端くれとして、感動を覚えながらこの番組を見ました。英語の辞典もあれと同じような大変な作業が裏に隠れていることは、経験した人間にしか分からないでしょうね。辞書を使われる全国の先生方から寄せられるたくさんの質問に、一つ一つ答えていく地道な作業も、編集主幹の故竹林先生が大切にしておられたことです。「~について調べて」と、竹林先生から夜中に電話や、お手紙(速達)でご指示をいただくたびに、気合が入ったあの頃を懐かしく思い出します。三浦しをんさんの『舟を編む』が映画化されたり、飯間浩明さんの『辞書を編む』(光文社新書,2013年)が出版されるなど、辞書ブームの昨今、とてもタイムリーな上質の番組だったと思います。NHKに感謝!

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